ネックリセットとは


 ギターの修理方法の一つですが、意外と詳細について知られていないようなので、 あらためて記載しておきたいと思います。

 この修理を施す場合の症状は、ハイポジションで弦高が高く、これ以上 サドルを削れない状態にある(サドルを削ると、固定側の弦とサドルの角度が なくなり、音がビビってしまう)場合でしょうか。
俗に言う、「ネックの元起き」とか「腰くだけ」が該当する物と思われます。
ネックの取り付け角度の基準として、1〜14フレットまでの直線(実際は極わずかに 順反りにカーブ)の延長が、ブリッジの上面に来ればいいのですが、上記の 不具合を生じている楽器は、延長線がブリッジのサウンドホール側の側面に 当たることになります。
多くの場合、ヘッド側から指板の上面を見てネックの反りを確認すると、 14フレットジョイントの場合、14フレットを境に「く」の字型に曲がってます。
曲がっていない場合でも、ボディ上の指板とボディの間に隙間ができてたり します。(~_~;)

 「ネックの元起き」や「腰くだけ」が発生する要因として、木材の収縮による 変化があります。弦を張ってテンションを掛ければ、圧縮と曲げの力が 集中する部分であり、制作上の強度が足りなかったり、木材の乾燥が 不十分な場合は、掛かる力に従って木が変形を起こし、時間と共に症状に至るのです。
ご存知ない方も多いかもしれませんが、Martin社の場合、強度アップのために 最近の物はネックブロックの形状が変わっています。我が家にある2002年の 45GEも、ネックブロックがL字型になっており、ボディ上の指板をしっかりと 支えています。いつからこのような形状になったのかは存じませんが、70年代までの Martinでは無かったネックブロック形状ですね。

  ネックの元起きがおきてしまった場合、もうAJロッドの調整では矯正することは できません、これはAJに限らず、SQネックでもTバーロッドネックでも同じです。
極わずかの元起きであれば、サドルを削って弦高を下げることで対応できますが、 それに伴い、程度によってはボディ上のフレット位置でビビリが発生する場合もあり、 リペアーによってはボディ上の指板を削る場合もあります。
とりあえずここで元起きの症状の進行が止まってくれればいいのですが・・・・(~_~;)

 さらに症状が進行して、もうサドルを削れない状態まで行ったら・・・・
最悪の修理として、ブリッジを削られる場合があります。(>_<)
たしかにブリッジを削れば症状に対しての対応はできますが、ブリッジの質量が 変わり、ボディ上の指板強度は落ち、高度なコンセプトを持って音造りが考えられ 製作された高級機種に取っては、致命的なダメージにもなりかねません。
このような修理は、ネックリセット代金を払うにも値しない、ローコストの大量生産 機種だけに限ります。
中古の楽器屋さんで売られる商品の中にも、ボディ上の指板がネック上の指板より 薄く、サドルの高さもなく、かろうじて演奏に耐えうるものがありますが、これは ネックの元起きがあり、『それなりの修理』が施されてるという事でもあるので、 購入するかどうかの判断基準にもなります。

 ネックリセットの修理料金、国内では¥60000〜¥100000程度が現在の (ダブ・テイル・ジョイント修理での)相場かと思います。また、手間も時間も掛かる 修理であり、リペアーマンとしてもモチベーションが上がらないと、取り掛かれない 修理だと聞いております。
 さて、実際のその修理ですが、オーソドックスなダブ・テイルの場合、まずボディ上の 指板を剥がす作業から始めます。ニカワ等を接着剤として使ってる場合には、暖める事により パレットナイフで容易に剥がす事ができます。
次に、ネックジョイント部の1フレット、サウンドホール側にあるフレットを抜き、そのフレット 溝にドリルで小穴を空けます。小穴を通してスチーム等の高熱をネックジョイント部に加え、 ネックを固定しているニカワ等の接着剤を柔らかくしてからネックを取り外します。
 その後は、正しいネックの取り付け角度になるように、外したネックのテールエンドを削るなり、 シムを足すなりして慎重に仕込み角度を決め、再度接着します。

 百聞は一見にしかずとも言いますので、ご本人の承諾も無く勝手に紹介ですが、 サンフランシスコ、グリフォンのリペアー名人、 フランクさんの作業をご覧下さい。


 ネックリセット修理は同じ不具合を再発するような修理ではありません。
そもそも発生原因が、経年変化を伴う木材の狂いからの変形により生じる訳ですから、変形した 部分を削るなりして矯正後に再度接着すれば、もうすでに木材の狂いが収束に向かってる限り、以後の大きな 変化は無く、再発は起こりにくくなります。
よほど素材の乾燥が不十分であるとか、高音、高湿度の悪環境でミディアムゲージ以上の弦を張りっぱなしにでもしない限り、 元起きの再発はあり得ないでしょう。
高価な修理ではありますが、腕のあるリペアーマンにより正しく処置されることにより、 楽器として甦ります。音の変わることを心配をされる方もいらっしゃいますが、正しい修理なら 良い方向へ変わる事はあっても、悪い方向へは変わりません。
キチンとくっつけ直すのですから当然といえば当然ですが・・・・(^^ゞ
指板を削ったり、ブリッジを削ったりするヤクザな修理では、根本から甦ることはありません。
最後に、フランクさんの名人技をあと二つご紹介しておきます。一つは1974年製の D−28の修理で、AJネックに差し替える作業と、それに伴うトップの強度不足を補う修理を 合わせて解説されてます。

もう一点は1935年の 000−28ですが、テールエンドの調整を非常に丁寧に 行っているのがわかります。(^^ゞ


 楽器として長いこと使用してれば、木に狂いが生じてネックの元起きが起こる可能性もあります。
修理費用は高価ですが、一生物とのお付き合いなら、それに見合う修理費用ではないでしょうか。




しかし・・・、長文大作になってしまいました。(^。^;) フウ

2006.4.11 記

2006.4.12 訂正


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